A Story Which Is Far-fetched
ある信じられない物語
というか、「こじつけ物語」なのだが、私の8月の17日と19日両日の記事は確かにこじつけ的には関連のあるものだ。そのことについて少しばかり、といいながら長くなりそうな気配もあるのだが。実は、ひょっとしたら、5日の『えっ、お前いったい、なにじん?』とか、10日や16日の一連の東大の馬鹿連の話とこじつけられるかもしれない。
何が直接に関連するかというと、17日に書いたホフマン先生の学位論文であるMarcion: On the Restitution of Christianity--An Essay on the Development of Radical Paulinist Theology in the Second Century の主人公マルチオンの生地と19日に書いたピアスン先生の The Gospel According to the Jesus Seminar に登場するオチンチン哲学者ディオゲネスの生地である。なお、以下の話は二つの著作の学問的に重要な話ではなく、多分、日本の読者にはめずらしいかもしれないというので書くので、そのお積もりで。
犬儒派のディオゲネスはギリシアのアテネで活躍した(ぐうたら生活も活躍ならだが)。キリスト教史上、初めて聖書の正典化(canonization)を試みたが、そのヘレニズム的なあるいは極端なパウロ主義で異端と指弾されたマルチオンはイタリアのローマで活躍した。どちらも当時の世界の中心に上京したわけだが、出身地はご両人とも黒海に面したポントス地方の今のトルコのシノペ市(Sinop, Sinope)出身である。
だいたいこの町は、ヘレニズム時代もローマ時代も、従ってディオゲネスのときもマルキオンのときも、港町ということもあるが国際都市であり、ミスリダテス4世の頃を除けば概ね宗主国ローマに隷属していた。離散のユダヤ人が入植したのも早く、離散のユダヤ人を伝わって広まったキリスト教も2世紀初頭にはかなりの数になっていたと思われる。
この辺りのユダヤ人ならびにユダヤ教は、もともと濃いギリシア的な気質から、自然とパウロ的律法の理解(ダマスコでの回心以前はユダヤ保守主義)に馴染みがあり、金持ち船主階級であったマルキオンのようなユダヤ人がキリスト教に傾く傾向は確かにあったかもしれない。ホフマンの学位論文の初めには、このようなユダヤ人ならびにユダヤ教の雑婚と習合的環境が詳述されている。
シノペの町には、イラン人とミトラ教、バビロニア人(今のイラク人であり、アッシリア人であり、バビロニアはユダヤ人発祥の地でもある)と諸文化が入り乱れ、今よりも大国だったアルメニアは黒海に面した隣国だった。もちろんギリシア・ローマの神々もひしめいている。となると、なるほど…。
私が思わず、「お前、なにじん?」と聞いてしまったのも当たり前だ。あの辺りは1900年前でさえ、誰がなにじんかわからないのだから、トルコのムスリムががキリスト教徒であるアルメニア人を虐殺した頃なら、もっともっと雑婚が進んでいて、あの国籍不明の彼の言うように、アッシリア人+イラン人+アルメニア人で、かつユダヤ人の祖先というのも嘘ではない。
ところでホフマン先生は、異端狩りの護教家テルトゥ リアヌスがヘロドトスを一部引用しながらシノペ市を紹介する一文を、テルトゥリアヌスの『反マルチオン論』から引用する。その中でテルトゥリアヌスは、この町をミソクソにけなすのだが、「最も野蛮で憂鬱な気分にさせるのは、あのマルチオンが生まれた町だということだ」と、とどめを刺す。しかし、ホフマン先生が言うように、テルトゥリアヌスはかなり変なところもあって、これはシノペの町に対する偏見である。余談だが、私も専門書でテルトゥリアヌスの『復活論』におけるパウロの復活論解釈がいいかげんなことを指摘したことがある。
このホフマン先生、シノペということで犬儒派哲学者シノペのディオゲネスに言及する。しかし、思想的関連では、さすがにこのディオゲネスとマルチオンを比較するのが唐突なので、「こじつけかもしれないが」の一句を挿入している。あるいは、審査の段階で入れさせられたのかもしれない。どうしても、あまり冒険が許されない学位論文ではありがちなことだ。
そこで、これが最後のこじつけとなるが、ホフマン先生はこの論文で博士の学位をオックスフォードで得ていても、オチンチンのディオゲネスを書いたピアスン先生と同じハーヴァードの神学部の出身だ。 私の身近のハーヴァード大学神学部出身者に共通するギリシア・ラテンの古典趣味と冗談好きの傾向からすれば、彼らの間ではオチンチンの話が常識あるいは日常の話だったような気がする。まぁ、東大文学部のしょうもない話よりいいか。
(Wikiの引用は英語版ですが、クリックして左を見ると「日本語」となっているものも、日本語がないものもあります。いずれにしても英語版のほうが正確で詳しいので英語版のほうをお薦めします。英語が面倒な方は、自動翻訳をご利用ください。なんとなくわかる日本語になるはずです。)